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特定技能「産業機械製造業」は人材不足解消の一手!雇用方法を解説します

2022-06-10 07:58:08 1953 view
日本では、さまざまな分野で人材不足が進んでいます。そうした事態を打開するため、2019年4月、政府が新設したのが外国人の在留資格「特定技能」です。特定の技能を持った外国人の就労制度があらためられ、一定の技術を持つ外国人材が産業やサービスの現場で働けるようになりました。 特定技能には14業種ありますが、それらの中から今回は「産業機械製造業」を解説します。また、外国人材を採用するために知っておきたい試験制度や在留資格についても説明します。 特定技能「産業機械製造業」とは? 現在、日本では少子高齢化の影響により、さまざまな業界で人材不足が進んでいます。この問題を解決するため、2019年、政府は特定技能の在留資格を新設しました。特定技能の在留資格が認められているのは14業種です。「産業機械製造業」もそのひとつです。 「産業機械」とは、工場や事務所内で利用される機械全般のことです。一例として、建設機械や農業機械、工業機械が挙げられます。 つまり「産業機械製造」とは、そうした機械を作る産業を指し、日本の製造業を支えるために不可欠な業界であり、日本の社会インフラを整備するにも、重要な役割を担っています。 特定技能「産業機械製造業」は1号のみ 特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があり、外国人材が保持する技能レベルに応じて、1号と2号に分けられます。しかし、14業種ある特定技能のうち、特定技能1号と2号の両方がある業種は、「建築業」と「造船・船用工業」の2業種のみです(2021年8月現在)。産業機械製造業については「特定技能1号」のみ、認められています。 在留資格認定証明書の交付を一時停止中 ※2022年4月時点 産業機械製造業分野における特定技能1号外国人数が、2022年2月末現在で5,400人(速報値)となり、受入れ見込数である5,250人を超える状況となったことから、在留資格認定証明書交付の一時停止することとなりました。特定技能1号への在留資格の変更、在留期間の更新については、要件を満たしていれば許可がおります。 ▶特定技能「産業機械製造業分野」における在留資格認定証明書交付の一時停止措置等について|出入国在留管理庁 特定技能が創設された背景 日本では、世界に例を見ないスピードで少子高齢化が進んでいます。それにより、人材不足はますます深刻化しています。日本商工会議所と東京商工会議所が2018年度に行った調査によれば、人員が「不足している」と回答した企業は、対象企業の66.4%でした。また、東京商工リサーチの調べによると、2020年度上半期(4-9月)に人手不足が関連して倒産した企業は、215件、前年同期比と比べると4.8%増でした。 さまざまな業界で人手不足が見られますが、なかでも産業機械製造業の現状は深刻です。工作機械やロボットなどの産業機械に対する需要が高まっているにも関わらず、平成29年度の産業機械製造業に関連する職業分類における有効求人倍率は、2.89倍。今後も人材不足はさらに進み、経済産業省は、産業機械製造業における人手不足の見込み数は、2023年までに7万5,000人になると予測されています。 こうした事態を打破する一手として、政府は新しい在留資格「特定技能」を定めることにより、外国人技術者の受け入れを可能にしたのです。 特定技能についてより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。 特定技能「産業機械製造業」で外国人材が行うことのできる業務 特定技能「産業機械製造業」では、次のとおり、18 の業務を行うことができます。 鋳造:金属を型に流し込み製品を製造する 鍛造:金属を打撃・加圧することで強度を高めたり、目的の形状にしたりする ダイカスト:溶融金属を金型に圧入して高い精度の鋳物を短時間で大量に生産する 機械加工:旋盤、フライス盤、ボール盤等の各種工作機械や切削工具を用いて金属材料等を加工する 金属プレス加工:金型を用いて金属材料にプレス機械で荷重を加えて、曲げ、成形、絞り等を行い成形する 鉄工:鉄鋼材の加工、取付け、組立てを行う 工場板金:各種工業製品に使われる金属薄板の加工・組立てを行う めっき:腐食防止等のため金属等の材料表面に薄い金属を被覆する 仕上げ:手工具や工作機械により部品を加工・調整し、精度を高め、部品の仕上げ及び組立てを行う 機械検査:各種測定機器等を用いて機械部品の検査を行う 機械保全:工場の設備機械の故障や劣化を予防し、機械の正常な運転を維持し保全する 電子機器組立て:電子機器の組立て及びこれに伴う修理を行う 電気機器組立て:電気機器の組立てや、それに伴う電気系やメカニズム系の調整や検査を行う プリント配線板製造:半導体等の電子部品を配列・接続するためのプリント配線板を製造する プラスチック成形:プラスチックへ熱と圧力を加える又は冷却することにより所定の形に成形する 塗装:塗料を用いて被塗装物を塗膜で覆う 溶接:熱又は圧力若しくはその両者を加え、部材を接合する 工業包装:工業製品を輸送用に包装する 特定技能1号「産業機械製造業」を取得するには? 外国人材が特定技能1号「産業機械製造業」を取得するには、二つの方法があります。一つ目は、「産業機械製造業分野の特定技能1号評価試験」と日本語検定に合格して資格を取得するという方法です。 二つ目は、「産業機械製造業」分野の技能実習2号から移行する方法です。 「産業機械製造業」分野特定技能1号評価試験に合格する 特定技能1号「産業機械製造業」を取得する一つ目の方法は、「産業機械製造業」分野特定技能1号評価試験に合格する、というものです。 産業機械製造業だけではなく、在留資格「特定技能」を取得するには、特定技能14業種がそれぞれ独自に定めた「特定技能評価試験」に合格する必要があります。 「産業機械製造業」の場合は、経済産業省の定める「製造分野特定技能1号評価試験」に合格しなければなりません。 さらに、日本での労働に必要な日本語水準を満たしていることを証明するため、規定の日本語試験に合格する必要があります。 特定技能試験については後ほど詳しく説明します。 「産業機械製造業」分野の技能実習2号からの移行 外国人材が特定技能1号「産業機械製造業」を取得するための、二つ目の方法は、「産業機械製造業分野の技能実習2号から移行する」というものです。 「技能実習2号」とは、1993年に導入された「技能実習」ならびに「研修」制度です。新設された「特定技能」の制度が整備されたことにより、外国人材は「技能実習生」から「特定技能」へ移行できるようになりました。これにより、これまで日本に滞在していた技能実習生は、在留資格「特定技能」を得ることで、追加で最長5年間、日本に滞在できるようになります。また、「産業機械製造業」分野の特定技能1号評価試験は免除されます。 下記に挙げた技能実習の職種は、試験なしで特定技能1号『産業機械製造業分野』へ移行できます。 (経済産業省「製造業における特定技能外国人材の受入れについて」をマイナビグローバルで加工) 「産業機械製造業」分野特定技能1号評価試験とは? 外国人材が特定技能1号「産業機械製造業」を取得するには、「技能測定」と「日本語」の、二つの試験で一定の成績をおさめる必要があります。 ここでは「産業機械製造業」の特定技能試験について解説します。特定技能試験の制度や受験資格などについては、こちらの記事で紹介しています。 「産業機械製造業」分野特定技能1号評価試験 「産業機械製造業分野特定技能1号評価試験」は、受験者が技能水準を満たしているかを評価する技能試験です。 特定技能1号「産業機械製造業」を取得するには、経済産業省が行う試験に合格しなければなりません。 技能試験 「製造分野特定技能1号評価試験」 実施場所 2019年度は、インドネシアで実施(2020年度は国内でも実施予定) 試験言語 主に現地語 実施方法 学科試験、実技試験 試験区分 19試験区分(鋳造、鍛造、ダイカスト、機械加工、金属プレス加工、鉄工、 工場板金、めっき、アルミニウム陽極酸化処理、仕上げ、機械検査、機械保全、 電子機器組立て、電気機器組立て、プリント配線板製造、プラスチック成形、 塗装、溶接、工業包装) ※レベルは技能検定3級相当(技能実習2号修了相当) 製造業における特定技能外国人材の受入れについて(経済産業省):PDF 試験の日程や試験の実施状況はこちらの記事でまとめています。参考にご覧ください。 日本語試験に合格する 特定技能1号「産業機械製造業」の特定技能資格を取得するには、日本での就業や生活が可能な日本語能力を持っているかを確認する必要があります。そのため、日本語能力試験JLPTのN4以上、もしくは国際交流基金日本語基礎テストに合格しなければなりません。 「日本語能力試験」 日本語能力試験のレベルは5段階。基礎のN5から幅広い場面で使われる日本語のN1までがあります。「産業機械製造業」分野の特定技能資格取得に際し、「日本語能力試験」を活用する場合は、N4以上が必要です。N4は、「基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる」「日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」というレベルです。試験は通常、年2回開催されます。 「国際交流基金日本語基礎テスト」 日本の生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力を測定し、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」があるかどうかを判定するテストです。試験は通常、年5回開催されます。 特定技能「産業機械製造業」の外国人材を採用するには? 特定技能「産業機械製造業」資格を持った外国人材の採用を検討している企業は、どうすれば受け入れることができるのでしょうか。 特定技能外国人を雇用する企業を、「特定技能所属機関(受入機関)」と呼びます。産業機械製造業で特定技能外国人を受け入れる特定技能所属機関(受入機関)は、以下3つの条件をすべて満たす必要があります。 1、事業所が以下の日本標準産業分類に該当している 特定技能「産業機械製造業」の外国人材を採用する事業者は、下記の日本標準産業分類に該当している必要があります。 製造業における特定技能外国人材の受入れについて(経済産業省):PDF 2、支援体制の義務を果たす 特定技能所属機関(受入機関)が特定技能1号外国人を雇用するためには、「事前ガイダンスの提供」「日本語学習の機会の提供」など、各種支援を行うことが義務付けられています。 ただし、受入機関はこの支援業務を「登録支援機関に委託する」ことができます。登録支援機関の詳細は、下記の記事で紹介していますので、ご覧ください。 3、産業機械製造業分野特定技能協議会への加入 特定技能所属機関(受入機関)は、経済産業省が組織する「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」に加入する必要があります。これは、経済産業省、法務省、地方自治体と、素形材産業分野・産業機械製造業分野・電気・電子情報関連産業分野の、いわゆる「製造業3分野」によって構成される組織のことです。協議・連絡会では、以下の活動により、構成員の連携強化や事業者の情報把握などを行います。 注意すべきポイントは、外国人材の受け入れ前に協議・連絡会への加入しなければならないことです。他分野では原則、初回受け入れ開始後の加入で問題ないため、間違えないようにしましょう。 また、2021年10月現在、加入手続きが混みあっており、3~4か月程度の期間を要します。早めの手続きがおすすめです。 【活動内容】 特定技能「産業機械製造業」の外国人を受け入れる制度の趣旨や優良事例の周知 特定技能所属機関等に対して法令遵守の啓発を行う 就業構造の変化や経済情勢の変化に関する情報把握及び分析 地域別の人手不足の状況の把握及び分析 特定技能外国人受入れに必要なその他の情報・課題等の共有・協議 まとめ 古くから「モノづくり」が盛んな日本において、産業機械製造業はいわば「縁の下の力持ち」といえる産業です。少子化や高齢化の影響により、このまま人材不足が進めば、日本のさまざまな産業は衰退し、国際的な競争力を失ってしまうかもしれません。日本の未来のためにも、特定技能「産業機械製造業」の外国人材の採用を検討してみてはいかがでしょうか。

面接で求職者の本音を聞き出すには?人柄がわかる質問集を紹介

2022-05-20 04:45:03 2456 view
採用過程において、面接は求職者の人柄に直接触れられる数少ない機会です。自社の発展に貢献してくれる人材を見極めるうえでは、ぜひとも求職者の「本音の部分」を引き出しておきたいところでしょう。 しかし、「ネガティブな側面をなるべく見せたくない」という心理から、求職者の中にはマニュアル的な対応が見られたり、話に脚色が加えられたりするケースもあり、「本来の姿」を見定めるのはそう簡単ではありません。 面接を形式的なものに終わらせず、企業側として知っておきたい部分を確認するためには、質問の方法や内容を工夫しながら、求職者の価値観に焦点を当てていく必要があるでしょう。 この記事では、求職者が本音で話すことのできる採用面接のポイントを整理したうえで、人柄を知るための質問を例示していきます。 求職者が本音で話すことのできない原因 面接で知りたい内容を引き出せない場合、企業側と求職者側とで何らかのすれ違いが生じている可能性があります。大きな原因としては、面接に際しての心理的ギャップや、コミュニケーション上のミスマッチなどが考えられるでしょう。 ここでは、面接での率直な反応を阻害しうる要因について具体的に解説していきます。 求職者の緊張感や警戒感がほぐれていない 採用面接は、求職者にとって「失敗できない場面」です。そのため、「自分のいい面を積極的にアピールしよう」という方向よりも、「悪い面を見せないようにしよう」という心理が働くことも多くなります。こうしたリスク回避の意識は、緊張や警戒感を強め、本音を覆う防護壁となりえます。 緊張感や警戒感を解きほぐすためには、求職者の人間性や人柄を受容する空気を形成することが重要です。緊張をほぐすための「アイスブレイク」となるやり取りに時間をかけたり、求職者の話に対して共感的な態度を積極的に示したりすることで、「話を聞いてもらえる」という印象を与えることが、本音を引き出すための前提となるでしょう。 なお、「アイスブレイク」の重要性や具体的な取り入れ方については、こちらの記事で詳しく扱っております。ぜひ併せてご参照ください。 求職者側のハードル設定が高い 求職者が志望先で働くことに対して、あまりに高いハードルを設定していると、面接で「肩に力が入りすぎてしまう」状況に陥ることがあります。業務で求められる技能の水準を過剰に高く見積もっていたり、その業界や職種について現実とかけ離れた理想を抱いていたりすると、「いいところだけを見せなければ」という思いが強くなり、本来の姿を見せにくくなるかもしれません。 こうした認識のギャップは、入社後の不適応の原因にもなりえます。事前の対策として、求人サイトや会社説明会などを通じ、業務の雰囲気や求められている水準を適切に伝えておくことが大切です。それが難しい場合には、面接の場で直接「どのような業務を行い、どのような役割が期待されているか」をこちら側から説明しながら進行することも有効でしょう。 テンプレート的な質問に終始している 面接で質問する内容がオーソドックスなものばかりだと、やはり求職者の価値観や考え方を深く知ることも難しくなるでしょう。 志望動機やアピールポイントなど、面接で頻出する質問に対しては、あらかじめ求職者側も答えを用意していることが多いです。「すでにある答えをスムーズに提示できるか」も大事なチェックポイントではありますが、そこから理由や背景を掘り下げていくような工夫がないと、やり取りが形式的なものに終わってしまいます。 「知りたいこと」に焦点を合わせながら、あらかじめ質問内容を検討し、話の流れに応じて理解を深めるための問いを発していきましょう。 「何を知りたいか」が明確に伝わっていない 一般的に、面接においてより多くの情報を得るためには、「はい/いいえ」で答えられるクローズド・クエスチョンよりも、「なぜ」「どのように」を問うオープン・クエスチョンの方が適しています。展開に合わせてオープン・クエスチョンを重ねていくことで、求職者の価値観や思考様式について多くの情報を得られるでしょう。 ただし、オープン・クエスチョンには「答えの方向性が見えにくくなる」リスクも付いてまわります。漠然と「なぜ」と聞かれても、どういう角度から答えればよいのかがわからず、答えに窮してしまうこともあるでしょう。 そのため、問いが抽象的なものになる場合は、答えの具体例を示しながら問いを発するなど、面接官側がある程度筋道を立てる必要があります。たとえば志望動機について、「自己実現」という言葉が曖昧なまま使われている時、「あなたにとって、自己実現とはどのようなことを指しますか?」で終わらせてしまうと、方向性がやや掴みにくいかもしれません。「仕事での達成感やプライベートの充実など、自己実現に欠かせないと思うポイントを教えてください」などと付け加えることで、答えの着地点が見えやすくなるでしょう。 面接時に人柄を見せてもらうためのポイント 面接で求職者に本来の姿を出してもらうためには、「自分を出しても大丈夫」という安心感を抱いてもらう必要があります。求職者の話に対し、興味を示しながら耳を傾ける姿勢を前面に出していきたいところです。以下では、そうした受容の姿勢を示す際に重要なポイントについて解説します。 相づちを積極的にうつ 採用面接という場面で、いきなり人柄をさらけ出すことは誰にとっても困難です。そのため、求職者の人柄を見せてもらうためには、裁量権のある面接官の方から積極的に共感の態度を示していくことが望ましいでしょう。 求職者の話に対して相づちを積極的にうつなど、「自発的に話すことを促せるか」が本来の人間性を垣間見るためのポイントになります。「なるほど」「そうなんですね」といった反応のほか、「それは面白い」など相手に関心を寄せていることを明確に示す反応を取っていきましょう。 さらに、面接をオンラインで実施する場合には、リアクションを大きめに取ることが望ましいです。Web面接は相手の表情や呼吸を細かく読み取ることが難しく、単調なやり取りになってしまうことも考えられるため、大きめかつ多めのリアクションを心がけるとよいでしょう。 面接官側から開示する姿勢を示す 面接官には基本的に「共感的な聞き手」としての立場が求められます。しかし一方で、ただ聞いているだけでは相手に「本当に話に乗ってくれているのだろうか」という不安を抱かせることもあるかもしれません。 面接官側も必要に応じて自らの情報を開示することで、場が温まり、相手が自分を出しやすい雰囲気が形成されると考えられます。もちろん、面接の目的は求職者の話を引き出すことですから、不必要に多くは語らず、相手の文脈に乗じ、話の流れを補強するような形でコミュニケーションを図りたいところです。 また、話の流れに合わせて業務内容や職場環境について話題に挙げることも、求職者側と認識をすり合わせるうえで有効でしょう。 本音を聞き出す質問例 実際に、求職者の本音を聞き出すうえで有効な質問にはどのようなものがあるでしょう。 まず考えられるのは、「答える準備をしていない質問」を投げかける、という方向性です。あらかじめ用意された答えよりも、その場で考えられた答えの方が、本心は反映されやすいと考えられます。 ただし、あまりに突飛な内容について聞いてしまうと、質問の意図が伝わらず、やり取りが噛み合わなくなるかもしれません。さらに、プライベートに関わる内容を不必要に聞いてしまえば、ハラスメントにつながるリスクもあります。 本音を聞き出すためには、「テンプレートとは別の角度からの質問」も意識しつつ、「最終的に何を確認したいのか」を見失うことなく問いを深めていくことが大切です。 志望動機に関する質問 志望動機をめぐる質問は面接において必出であるために、多くの求職者が事前に答えを用意していると考えられます。しかし、問い方を変えてみることで、用意されたものとは別の要素に光を当てられるかもしれません。たとえば、以下のような質問が考えられるでしょう。 ●この会社にどのようなことを期待していますか? 会社に対するイメージや求職者の仕事観を、志望動機とは異なる角度から推し量るための質問です。通常、志望動機として用意されている答えは、「貢献する側」の視点から考えられているケースが多いですが、「何かを受け取る側」としての視点は想定されていない可能性も大いにあります。 求職者の心理からすれば給与などの条件面は挙げにくいと考えられますので、おのずと「どのような環境で、どのように働きたいか」といった角度から答えが導き出されることになるでしょう。 ●会社を選ぶ際に重視する点は何ですか? 志望動機そのものを聞く場合に比べ、仕事やキャリアに対する考え方に焦点を当てた質問です。「自社を選んだ理由」ではなく「就活一般における基準」を聞くことで、用意されたものとは異なる観点が提示されることもあるでしょう。 転職理由に関する質問 中途採用の場合、企業側としては転職理由を知っておきたいところでしょう。とはいえ転職の理由は頻出の質問であるために、あらかじめ答えが用意されており、「本当のところ」がわからないケースもしばしばです。質問の仕方を変えてみることで、別の角度からの答えを引き出してみましょう。 ●現段階で転職を選択したのはなぜですか? 転職理由そのものではなく、「なぜ今か」に重点を置いた聞き方です。転職のタイミングについては明確な理由づけが用意されていない可能性も高いため、「キャリア設計における自社の位置づけ」を知るうえで有効な質問となりえます。 質問する際に注意したいのは、「なぜ今でなくてはいけないのか」といったニュアンスが強く出ないようにすることです。「今でなくてもいいのでは」というように受け止められると、圧迫的な印象を与えかねないため、あくまで「キャリアの見通し」に関連した質問であることが相手に伝わるように聞く必要があります。面接の流れに合わせて、「キャリア設計やライフプランの視点からお答えください」などと補い、ある程度答えに筋道をつけるとよいでしょう。 ●「これがあれば前の会社に残ってもいい」というポイントはありますか? 前社に欠如していたポイントを間接的に問うことで、「働くにあたって譲れない要素」を読み取るための質問です。万が一「どんな条件でも残りたくない」といった趣旨の答えが返ってきた場合には、「とくに許容できないと感じるポイント」を複数挙げてもらうなどすれば、聞きたい内容を補うことができるでしょう。 仕事への向き合い方に関する質問 「その人が物事をどう捉え、何にやりがいを感じるか」といった仕事観についても、面接を通して確認しておきたいところです。 ●ご自身の人生のなかで大きな成功をした経験について、具体的なエピソードと、そこから得たものについて教えてください 採用面接においてしばしば聞かれる質問ですが、自身の経験をストーリーとして結びつける際には考え方や価値観が見えやすくなります。「物事をどう受け止め、どう行動につなげていくか」といった傾向を読み取るために、「挫折や困難を乗り越えた経験」「達成感を覚えた経験」など同種の質問を複数行うのもよいでしょう。 ●10年後に「こうなっていたい」というご自身のイメージについて教えてください/「将来こうはなりたくない」というイメージを教えてください セルフイメージのネガ・ポジ両面について尋ねることで、キャリアの見通しや、自己認識のあり方について知るための質問です。具体的な内容を聞き出すのではなく、求職者の価値観を総体的に捉えるうえで有効だと考えられます。 適性や能力に関する質問 求職者の得手不得手や、特定の業務に対する適性などを確認する際に有効な質問です。 ●「この仕事は任せてほしい」という業務と、「できるなら避けたい」という業務について教えてください 得意分野と苦手分野を知るための質問です。別個の質問として聞いてもよいですが、話の流れによっては「現実が見えてないと思われるかもしれない」「選り好みしていると思われるのでは」など、率直に答えることをためらう求職者もいるかもしれません。 併せて聞かれれば「特性について知りたい」という意図が明確に伝わり、答える側としても得手不得手を関連づけながら話を展開できると考えられます。ただし、業務の内容についてある程度想定できていることが前提となる質問ですので、全体像が明瞭でない場合には、情報開示の意味でも簡単に業務の構成について前置きしておくとよいでしょう。 ●仕事をするうえで課題に感じていることは何ですか? スキル面やコミュニケーション面など、業務遂行において求職者がネックとして自覚しているポイントを知るための質問です。 得意なことや将来のビジョンについては話を組み立てやすいですが、苦手意識のあるものについてスムーズに思考を展開することは難しく、直接「苦手な仕事はありますか」と聞いても率直な答えが返ってこない可能性もあります。「課題」や「改善点」など前向きな言葉を使って尋ねることで、苦手意識についても話しやすくなるでしょう。 知りたいポイントに焦点を合わせ、業務の遂行や、組織における役割など、いくつかの観点から質問するのも有効です。 まとめ 求職者の本音を引き出すために、質問の内容を工夫することはもちろん重要です。しかしその前提として、求職者の「人柄そのものを受容する」空気を形成しておくことが、面接を実りあるものにする条件となるでしょう。 採用面接では、求職者が「本来の自分を出したいが、出し方がわからない」という心理状態に陥っていることも多いです。面接官側から歩み寄る姿勢を見せながら、相手の人柄に対して関心を寄せていることを好意的なリアクションで示していきましょう。 テンプレート的な内容とは異なる角度から質問していく際には、「企業側として何を確認しておきたいか」という点を明確にしておくことが大切です。物事の捉え方や考え方の傾向、判断と行動の様式など、焦点を明確にすることで質問の有効性も高まると考えられます。

従業員エンゲージメントとは?組織改善への効果や実践方法について解説

2022-05-20 04:33:44 1073 view
組織を形成していくうえで、従業員の「仕事への向き合い方」は大きなファクターです。彼らの意欲や態度により、業務の効率や発展性は少なからず左右されます。 しかしこうした主観的な要素は定量的な把握が難しく、「何をどうしたら従業員にやる気を出してもらえるか」と頭を悩ます経営者の方も多いでしょう。 従業員の仕事に対する取り組み方を総合的に捉えるうえで、有効な観点となるのが「従業員エンゲージメント(エンプロイエンゲージメント)」です。「企業と従業員が目線を合わせられているか」「従業員がどれくらい仕事に積極的か」ということをアンケート調査などでモニタリングすることで、組織の課題を見つけ、改善につなげていくことができます。 この記事では、従業員エンゲージメントの基本的な意味や、調査の方法について解説したうえで、企業の取り組み事例をもとにそれを高めるためのポイントをお伝えします。 従業員エンゲージメントとは エンゲージメント(Engagement)は多義的な言葉であり、「従事すること」「没頭すること」「約束すること」といった意味を持ちます。総じて「みずから何かに関わり、積極的に関係を維持しようとすること」というニュアンスを持つ言葉です。 すなわち「従業員エンゲージメント(Employee Engagement)」は、企業に対する従業員の「積極的関与の度合い」を表す言葉だといえるでしょう。 従業員エンゲージメントの重要性は1990年代からアメリカ合衆国を中心に注目されるようになり、企業の長期的な成長に対する好影響が指摘されてきました。その後、生産性や業績との相関性を示す研究結果なども広く知られるようになり、近年では日本においても従業員エンゲージメントを調査し、組織改善のための視点を得ようという企業が増えています。 従業員エンゲージメントを構成する要素 従業員エンゲージメントはさまざまな要素から成り立つ概念です。「満足度」や「愛社精神」など組織への信頼や愛着、「コミットメント」といった積極的な行動面なども、その観点となりえます。 「組織と足並みを揃え、仕事に主体的に取り組む」というあり方に照らしてみれば、エンゲージメントを構成する主な要素として「企業とのビジョンの共有」「自身の役割についての理解」「組織に対する信頼」といったものが挙げられるでしょう。会社と従業員が足並みを揃えるには、従業員が会社の方針や理念を理解し、それに照らした自身の役割について把握している必要があります。 しかしこれらの点について理解していても、実際に会社に貢献しようという思いがなければエンゲージメントは高まりません。業務内容や評価制度への納得感や、仕事のやりがい、承認されている感覚などにより、協調的なモチベーションが高められていきます。 そしてそれらを土台に、会社としての目標に対して的確なアプローチをしていけるような状態が、エンゲージメントの高さを形成しているといえるでしょう。 従業員エンゲージメントの高さがもたらすメリット 従業員エンゲージメントそのものは従業員の主観的感覚を表す指標ですが、こうしたものが現実の業務にプラスの影響を及ぼすことは想像に難くありません。 組織への信頼感や、職場環境への満足感は、従業員の定着率に大きく影響するでしょう。仕事に対して取り組む姿勢の変化や業務の質、生産性の向上にもつながると考えられます。 実際に、エンゲージメントの高さが企業の業績と相関関係にあることを示す研究も複数存在しています。「株式会社リンクアンドモチベーション」の研究機関である「モチベーションエンジニアリング研究所」は、「慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 ビジネス・スクール 岩本研究室」と共同で、従業員エンゲージメントと企業業績の関係性について研究調査を行いました。 会社への期待度や満足度の偏差を表す「エンゲージメントスコア」を指標とし、営業利益率や労働生産性との相関度を調べたところ、エンゲージメントスコアが1上がるにつき営業利益率は0.38%、労働生産性の指数(従業員に支払われる給与1円あたりの正常収益額)は0.035上昇するという結果が得られました。 (参照:株式会社リンクアンドモチベーション「『エンゲージメントと企業業績』に関する研究結果を公開」) エンゲージメントの高さは「職場の雰囲気」「従業員の態度」といった数値に表れない部分はもちろんですが、業績面においてもプラスの影響をもたらすと考えてよいでしょう。 従業員エンゲージメントを調査するための質問 従業員エンゲージメントを調査する際には、アンケート形式を採用するのが一般的で、全体としての傾向を定量的に把握するために、「とてもそう思う」「そう思う」「どちらともいえない」「そう思わない」「まったくそう思わない」というように、振れ幅を5段階程度で回答してもらう形がスタンダードです。 調査を実施するうえでは、その目的を明確に周知し、人事評価などにはまったく影響しないことを担保するなどして、率直な意見が反映されるよう配慮しましょう。 また、実施するペースにも注意が必要です。日報としてアンケートを設置し、日々の変化を細かくモニタリングすることも有効ですが、調査に対して倦怠感が生じてしまう可能性もあります。頻度と質問の量とのバランスを取り、変化を追跡できるように設計することが望ましいです。 アンケートの項目には決まった内容はありませんので、自社の方針などに合わせて自由に質問項目を用意しましょう。一例として、以下にスタンダードな質問を観点別に挙げていきます。 企業への満足度について 働くうえでの安心感や、待遇に対する満足度、組織に対する信頼感といった要素は、従業員エンゲージメントを知るうえで必須の質問でしょう。 近しい関係の人に自社で働くことを勧められるか 意見を聞いてくれる感覚があるか 「評価されている」と思える出来事が最近あったか など、従業員が会社やチームに対して満足しているかどうかをアンケートによって把握しておきたいところです。 組織の目標に対する共感と協調について エンゲージメントを把握するためには、「組織と従業員が同じ方向を向けているか」という観点からの質問も盛り込むとよいでしょう。 会社の理念や目標が、自分にとっても重要なものだと思えるか 組織において自身が求められているものを理解できているか 職場に見習いたいと思える人物がいるか など、会社の目標に対する理解度や共感の度合いを尋ねる項目が有効です。 個々のキャリアとの適合性について 従業員が自分自身のキャリアのなかで、会社をどう位置づけているのかも重要なポイントです。会社での仕事に対する意義付けが明確であるほど、従業員はやりがいを感じやすく、組織へのエンゲージメントも高くなる傾向にあります。 仕事を通して成長している実感があるか 仕事をするやりがいや意義が感じられるか 現在与えられている役割は、自分の得意分野を活かせるものか など、その会社で働いていることが、従業員にとって意義のあるものとなっているかどうかを確認するとよいでしょう。 従業員エンゲージメントが高い企業の事例 ここでは実際に、際立った取り組みによって組織のエンゲージメントを高めることに成功した企業の事例を紹介します。 企業文化の浸透に努める人事部門 ソーシャル経済メディア「NewsPicks」を運営する「株式会社ユーザベース」は、企業の成長にともない従業員が増加するなか、「企業文化」や「価値観」を浸透させることに力を入れてきました。 組織の指針として掲げられた「7つのルール」を、具体的に個々の従業員に根付かせていく役割を担っているのは同社の「カルチャーチーム」という部門です。 採用や給与システムの設計、研修や福利厚生など、カルチャーチームが扱う範囲は通常の「人事部門」と同様のものです。とはいえ、こうした待遇や人材育成に関する場面はとくに「企業と従業員の考え方が交錯する場」となりえます。 このような場において、人事体制を整えるだけではなく、「企業文化の定着」という面に力点を置いているのが「カルチャーチーム」です。実際に、従業員エンゲージメントをクラウド上でモニタリングするサービス「モチベーションクラウド」を導入し、表彰制度などの具体的な施策に活かしています。 (参照:UB Journal「代表が病気療養しても自走できる強さの源泉、ユーザベース『7つのルール』」) 社内コミュニケーションの活性化を促す制度 法人向けのクラウド型名刺管理サービスを提供する「Sansan株式会社」は、従業員間のコミュニケーション活性化を目的としたオフィス「Sansan ONE」を設置しました。オフィスには作業スペース以外にフリースペースが広く取られており、バーカウンターやボルダリングなど、従業員同士が楽しめる環境が整っています。 (参照:Sansan株式会社「ニュース」) その他、他部署の社員との飲み会費用を補助する「Know Me(ノウミー)」制度をはじめ、コミュニケーションを促す仕組みが充実しており、同社のコンセプトである「出会い」という視点が存分に活かされた体制が敷かれているといえるでしょう。在宅勤務や子どもの保育園料の補助など、福利厚生面でも充実したシステムが用意されており、会社への高い満足度が従業員のエンゲージメントを引き出す好例となっています。 定期的な目標の共有とフィードバック 画像処理ソフトや各種クラウドサービスを提供する「アドビ株式会社」は、従来のランク付けによる評価制度を撤廃し、「チェックイン制度」と呼ばれるフィードバックのシステムを構築しました。マネージャーと従業員が1対1で話す場を四半期に一度以上設定し、現状の再認や目標のすり合わせを行うというものです。 「期待(Expectations)」「フィードバック(Feedback)」「キャリア開発(Development)」という3つのパートから成り立ち、「期待」のパートは、会社の現状をふまえ、当の従業員に「何が期待されているのか」について共通認識をつくる段階です。そのうえで、「フィードバック」のパートにおいてマネージャーと従業員が双方に現状の課題を提示していきます。最後の「キャリア開発」においては従業員側が主体となり、期待されているものに対して、自身の持つビジョンや達成プランを提示する、という形です。 (参照:Wantedly「アドビ株式会社」) 従業員エンゲージメントを高めるポイント 目標設定のあり方や評価制度など、従業員エンゲージメントを高める際に重要となる観点について解説します。実際に改善策を講じるにあたっては、アンケートなどの調査結果をふまえ、問題の所在を明確にしておくことが大切です。 組織と従業員の共通目標を設定 従業員エンゲージメントを高めるうえで、前提となるのは「組織と個人が目的意識を共有している」ことです。その際、重要なのは組織としての大きな目標を、個々の具体的目標に落とし込んでいくことだと考えられます。 Googleなどに採用されている目標管理システム「OKR(Objectives and Key Results)」は、こうした目的意識を共有するうえで有効に機能するでしょう。目標(O:Objective)に対し、それぞれの達成条件としての主要指標(KR:Key Result)を設定し、進捗をトラッキングするという方法ですが、鍵になるのは「OKRの階層構造」をつくることです。 「会社としてのOKR」を設定し、それに照らして「チームとしてのOKR」、さらに「個人としてのOKR」など、それぞれの段階を連動させていくことで、会社と個人の目的地を具体的に示すことができます。 仕事に対する的確な評価やフィードバック 従業員エンゲージメントの高い企業の特徴として、「そこでの仕事を通じて自己肯定感が得られる」という点が挙げられます。とりわけ「自分の仕事が適正に評価されている」という感覚は、会社への信頼を大きく左右する要素です。 評価制度を見直す際、現状の制度のどこに不満が出ているのかを見定めることが重要です。 公平性や納得感を重視するうえでは360度評価など、多面的評価制度が有効でしょう。上司だけではなく、同僚や部下からの評価も査定に取り入れることで、主観にもとづく評価の偏りを減らすことが期待できます。 実力に対する適正な評価という面では、インセンティブ制度や表彰制度などの導入を検討するのもよいでしょう。 権限委譲 従業員エンゲージメントと深い相関関係にあるのが、仕事をするうえでの「やりがい」や「成長している感覚」です。こうした感覚を得るには、与えられる権限や裁量の大きさが重要なファクターとなります。 成長意欲のある従業員には積極的に重要な役割を任せていくことで、やりがいや成長感を引き出し、組織へのエンゲージメントを高めることが期待できます。 まとめ 「従業員エンゲージメント」は仕事に対する「意欲」や「態度」など、はっきりとは認識できない部分に光を当てるための観点です。それゆえに、生産性や業績といった部分と相関性があるのかどうか把握することが難しく、組織改善において後回しにしてしまうことも多いかもしれません。 しかし、安定した経営を続けていくための土台となるのは、やはり個々の従業員が抱いているモチベーションや、会社への信頼感だと考えられます。組織を見直すにあたり、このような見えない地盤の状態を確かめることは、もっとも根本的な問題への洞察につながりうるものです。 従業員エンゲージメントをめぐる調査結果は、組織改善に向けたヒントを与えてくれます。適切な調査によって従業員の意識を知り、進むべき方向性を探っていきたいところです。