似たような言葉ですが、この2つには法的拘束力の有無という決定的な違いがあります。採用トラブルを避けるためにも、人事担当者はしっかりと言葉の持つ意味を把握しておきましょう。
そこで今回は、「内定」と「採用」の違いについて解説していきます。応募者に通知を出す際の注意点についても解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
採用・内定・内々定の違いとは?
まず結論からお伝えすると、採用と内定の違いは「企業と応募者の間で労働契約が成立しているか否か」という点にあります。
法律上、採用は労働契約に至る前の段階、内定は労働契約を締結した状態として扱われます。簡単に言うと、採用は最終選考通過連絡、内定は正式な雇用契約というイメージです。
具体的にどのような状態を示しているのか、「採用」や「内定」とともによく使われる言葉「内々定」とともに確認していきましょう。
採用とは?
採用とは、企業が一方的に応募者を雇用する意思表示をしている状態です。
簡単に言うと、応募者が最終選考を通過したこと、つまり「合格」したことを示している段階であり、正式に入社してもらうためには応募者に「入社する意志があるかどうか」を確認する必要があります。
内定とは?
一方、内定は企業と応募者が互いの合意のもとに労働契約を締結した状態を指します。
法律上、求人への応募は「労働契約への申し込み」、内定通知は「申し込みに対する承諾」として解釈され、内定者が入社承諾書や採用承諾書を提出した時点、もしくは、企業が内定通知を出した時点で「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれる契約が成立します。
内々定とは?
ちなみに、内々定は企業が応募者に対して「将来的に内定を出しますよ」と約束している状態です。主に新卒採用で使われる言葉で、中途採用ではあまり使用されません。
なぜ、内定ではなく「内々定」という形式を取るかというと、政府が定める新卒採用ルール「就職・採用活動に関する要請」が関係しています。これによると、正式な内定日は「卒業・修了年度の10月1日以降」と決められており、それ以前に学生へ内定を出すことは、ルール上、認められていません。
しかし、多くの企業は、選考解禁日となる6月1日に活動を開始し、9月末までには採用者を決定するケースがほとんど。そこで、内々定という形で雇用を約束し、内定者を確保しているのです。
内定通知書と採用通知書の違い
ここで、労働契約の成否基準について補足しておきましょう。
一般的に、「始期付解約権留保付労働契約」は、内定通知を受けた応募者が誓約書(内定承諾書等)を提出した時点で成立するとされています。しかし、状況によっては、企業側が内定を通知した時点で契約が成立する可能性もあり、実際にはケースバイケースで判断されています。
そこで、トラブル防止のために作成しておきたい書類が「内定通知書」です。法律で発行が義務付けられているものではありませんが、書面に残しておけば「採用内定」という意思表示を示す証拠となります。内定者に雇用条件を明確に伝えることで、企業としての信頼度も高まるため、発行しておいて損はないでしょう。
ちなみに、「内定通知書」と似た書類に「採用通知書」がありますが、実はどちらも法的な定義は決められていません。会社によって定義を分けている場合もありますが、ほぼ同じ意味合いで使われていることも多いです。
ただ、ここで気になるのが法的拘束力の有無。「内定通知書」はその名の通り「内定」を知らせるものなので、「始期付解約権留保付労働契約」を締結した証拠として扱われると考えられます。
では、「採用通知書」はいかがでしょうか。法的拘束力の有無については見解が分かれることが多いですが、「採用が決定しました」といった雇用を約束するような表現が記載されている場合は、労働契約が成立していると判断される可能性が高いです。後ほどご説明しますが、企業側が内定を一方的に取り消すことはできないため、いずれの書類も「労働契約を締結するために交わす書類」という意識をもって発行するようにしましょう。
採用・内定の取り消しは可能?通知を出す前に知っておきたい注意点
ここからは、内定の取り消し可否について解説していきます。応募者による内定辞退と大きく扱いが異なるため、トラブルにならないようしっかり把握しておきましょう。
まず、採用・内定ともに応募者側は辞退できるようになっています。これは、憲法第22条で「職業選択の自由」が規定されているためであり、企業側は拒否することができません。
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
対して、企業側の内定取り消しは「解雇」に相当し、正当な理由がなければ取り消すことができません。
では、「内定取り消しが認められる正当な理由」とは、どのようなケースを指しているのでしょうか。具体的に確認しておきましょう。
なお、労働契約に至る前の採用や内々定は解雇扱いになりません。しかし、応募者に雇用を約束している以上、一方的な取り消しは応募者の信頼を損なう行為となります。法的な拘束力はないとしても、内々定の取り消しには細心の注意を払う必要があるでしょう。
内定取り消しが認められるケースとは?
内定取り消しが認められるケースとして、以下の5つが挙げられます。
1.内定者が学校を卒業できなかった場合
2.内定者が健康上の理由により働けなくなった場合
3.内定者が犯罪行為を起こした場合
4.内定者が虚偽の申告を行った場合
5.会社の業績悪化や不振により経営状態が著しく悪化した場合
上記に該当する場合は、認内定取り消し事案として認められる可能性が高いですが、それでも法的に契約を結んでいる以上は簡単に内定を取り消すことはできません。過去には内定取り消しをめぐる裁判も起こっているため、慎重かつ真摯な対応を心がけましょう。
こちらの記事では、過去の判例を交えながら内定取り消しについて解説しているので、より詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
まとめ
最後に、採用・内定・内々定の違いをまとめておきましょう。
<採用>
企業側が応募者に対して雇用する意思を示している状態(法的拘束力なし)
<内定>
企業と応募者の合意のもとに締結された労働契約(法的拘束力あり)
<内々定>
労働契約に至る前の内定予定通知(法的拘束力なし)
どれも「雇用を約束する」という肝の部分は同じですが、法的な位置づけは異なります。万が一のトラブルを避けるためにも、この違いをしっかり押さえておきましょう。