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組織を形成していくうえで、従業員の「仕事への向き合い方」は大きなファクターです。彼らの意欲や態度により、業務の効率や発展性は少なからず左右されます。
しかしこうした主観的な要素は定量的な把握が難しく、「何をどうしたら従業員にやる気を出してもらえるか」と頭を悩ます経営者の方も多いでしょう。
従業員の仕事に対する取り組み方を総合的に捉えるうえで、有効な観点となるのが「従業員エンゲージメント(エンプロイエンゲージメント)」です。「企業と従業員が目線を合わせられているか」「従業員がどれくらい仕事に積極的か」ということをアンケート調査などでモニタリングすることで、組織の課題を見つけ、改善につなげていくことができます。
この記事では、従業員エンゲージメントの基本的な意味や、調査の方法について解説したうえで、企業の取り組み事例をもとにそれを高めるためのポイントをお伝えします。
従業員エンゲージメントとは
エンゲージメント(Engagement)は多義的な言葉であり、「従事すること」「没頭すること」「約束すること」といった意味を持ちます。総じて「みずから何かに関わり、積極的に関係を維持しようとすること」というニュアンスを持つ言葉です。
すなわち「従業員エンゲージメント(Employee Engagement)」は、企業に対する従業員の「積極的関与の度合い」を表す言葉だといえるでしょう。
従業員エンゲージメントの重要性は1990年代からアメリカ合衆国を中心に注目されるようになり、企業の長期的な成長に対する好影響が指摘されてきました。その後、生産性や業績との相関性を示す研究結果なども広く知られるようになり、近年では日本においても従業員エンゲージメントを調査し、組織改善のための視点を得ようという企業が増えています。
従業員エンゲージメントを構成する要素
従業員エンゲージメントはさまざまな要素から成り立つ概念です。「満足度」や「愛社精神」など組織への信頼や愛着、「コミットメント」といった積極的な行動面なども、その観点となりえます。
「組織と足並みを揃え、仕事に主体的に取り組む」というあり方に照らしてみれば、エンゲージメントを構成する主な要素として「企業とのビジョンの共有」「自身の役割についての理解」「組織に対する信頼」といったものが挙げられるでしょう。会社と従業員が足並みを揃えるには、従業員が会社の方針や理念を理解し、それに照らした自身の役割について把握している必要があります。
しかしこれらの点について理解していても、実際に会社に貢献しようという思いがなければエンゲージメントは高まりません。業務内容や評価制度への納得感や、仕事のやりがい、承認されている感覚などにより、協調的なモチベーションが高められていきます。 そしてそれらを土台に、会社としての目標に対して的確なアプローチをしていけるような状態が、エンゲージメントの高さを形成しているといえるでしょう。
従業員エンゲージメントの高さがもたらすメリット
従業員エンゲージメントそのものは従業員の主観的感覚を表す指標ですが、こうしたものが現実の業務にプラスの影響を及ぼすことは想像に難くありません。
組織への信頼感や、職場環境への満足感は、従業員の定着率に大きく影響するでしょう。仕事に対して取り組む姿勢の変化や業務の質、生産性の向上にもつながると考えられます。
実際に、エンゲージメントの高さが企業の業績と相関関係にあることを示す研究も複数存在しています。「株式会社リンクアンドモチベーション」の研究機関である「モチベーションエンジニアリング研究所」は、「慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 ビジネス・スクール 岩本研究室」と共同で、従業員エンゲージメントと企業業績の関係性について研究調査を行いました。
会社への期待度や満足度の偏差を表す「エンゲージメントスコア」を指標とし、営業利益率や労働生産性との相関度を調べたところ、エンゲージメントスコアが1上がるにつき営業利益率は0.38%、労働生産性の指数(従業員に支払われる給与1円あたりの正常収益額)は0.035上昇するという結果が得られました。
(参照:株式会社リンクアンドモチベーション「『エンゲージメントと企業業績』に関する研究結果を公開」)
エンゲージメントの高さは「職場の雰囲気」「従業員の態度」といった数値に表れない部分はもちろんですが、業績面においてもプラスの影響をもたらすと考えてよいでしょう。
従業員エンゲージメントを調査するための質問
従業員エンゲージメントを調査する際には、アンケート形式を採用するのが一般的で、全体としての傾向を定量的に把握するために、「とてもそう思う」「そう思う」「どちらともいえない」「そう思わない」「まったくそう思わない」というように、振れ幅を5段階程度で回答してもらう形がスタンダードです。
調査を実施するうえでは、その目的を明確に周知し、人事評価などにはまったく影響しないことを担保するなどして、率直な意見が反映されるよう配慮しましょう。
また、実施するペースにも注意が必要です。日報としてアンケートを設置し、日々の変化を細かくモニタリングすることも有効ですが、調査に対して倦怠感が生じてしまう可能性もあります。頻度と質問の量とのバランスを取り、変化を追跡できるように設計することが望ましいです。
アンケートの項目には決まった内容はありませんので、自社の方針などに合わせて自由に質問項目を用意しましょう。一例として、以下にスタンダードな質問を観点別に挙げていきます。
企業への満足度について
働くうえでの安心感や、待遇に対する満足度、組織に対する信頼感といった要素は、従業員エンゲージメントを知るうえで必須の質問でしょう。
- 近しい関係の人に自社で働くことを勧められるか
- 意見を聞いてくれる感覚があるか
- 「評価されている」と思える出来事が最近あったか
など、従業員が会社やチームに対して満足しているかどうかをアンケートによって把握しておきたいところです。
組織の目標に対する共感と協調について
エンゲージメントを把握するためには、「組織と従業員が同じ方向を向けているか」という観点からの質問も盛り込むとよいでしょう。
- 会社の理念や目標が、自分にとっても重要なものだと思えるか
- 組織において自身が求められているものを理解できているか
- 職場に見習いたいと思える人物がいるか
など、会社の目標に対する理解度や共感の度合いを尋ねる項目が有効です。
個々のキャリアとの適合性について
従業員が自分自身のキャリアのなかで、会社をどう位置づけているのかも重要なポイントです。会社での仕事に対する意義付けが明確であるほど、従業員はやりがいを感じやすく、組織へのエンゲージメントも高くなる傾向にあります。
- 仕事を通して成長している実感があるか
- 仕事をするやりがいや意義が感じられるか
- 現在与えられている役割は、自分の得意分野を活かせるものか
など、その会社で働いていることが、従業員にとって意義のあるものとなっているかどうかを確認するとよいでしょう。
従業員エンゲージメントが高い企業の事例
ここでは実際に、際立った取り組みによって組織のエンゲージメントを高めることに成功した企業の事例を紹介します。
企業文化の浸透に努める人事部門
ソーシャル経済メディア「NewsPicks」を運営する「株式会社ユーザベース」は、企業の成長にともない従業員が増加するなか、「企業文化」や「価値観」を浸透させることに力を入れてきました。
組織の指針として掲げられた「7つのルール」を、具体的に個々の従業員に根付かせていく役割を担っているのは同社の「カルチャーチーム」という部門です。
採用や給与システムの設計、研修や福利厚生など、カルチャーチームが扱う範囲は通常の「人事部門」と同様のものです。とはいえ、こうした待遇や人材育成に関する場面はとくに「企業と従業員の考え方が交錯する場」となりえます。
このような場において、人事体制を整えるだけではなく、「企業文化の定着」という面に力点を置いているのが「カルチャーチーム」です。実際に、従業員エンゲージメントをクラウド上でモニタリングするサービス「モチベーションクラウド」を導入し、表彰制度などの具体的な施策に活かしています。
(参照:UB Journal「代表が病気療養しても自走できる強さの源泉、ユーザベース『7つのルール』」)
社内コミュニケーションの活性化を促す制度
法人向けのクラウド型名刺管理サービスを提供する「Sansan株式会社」は、従業員間のコミュニケーション活性化を目的としたオフィス「Sansan ONE」を設置しました。オフィスには作業スペース以外にフリースペースが広く取られており、バーカウンターやボルダリングなど、従業員同士が楽しめる環境が整っています。
(参照:Sansan株式会社「ニュース」)
その他、他部署の社員との飲み会費用を補助する「Know Me(ノウミー)」制度をはじめ、コミュニケーションを促す仕組みが充実しており、同社のコンセプトである「出会い」という視点が存分に活かされた体制が敷かれているといえるでしょう。在宅勤務や子どもの保育園料の補助など、福利厚生面でも充実したシステムが用意されており、会社への高い満足度が従業員のエンゲージメントを引き出す好例となっています。
定期的な目標の共有とフィードバック
画像処理ソフトや各種クラウドサービスを提供する「アドビ株式会社」は、従来のランク付けによる評価制度を撤廃し、「チェックイン制度」と呼ばれるフィードバックのシステムを構築しました。マネージャーと従業員が1対1で話す場を四半期に一度以上設定し、現状の再認や目標のすり合わせを行うというものです。
「期待(Expectations)」「フィードバック(Feedback)」「キャリア開発(Development)」という3つのパートから成り立ち、「期待」のパートは、会社の現状をふまえ、当の従業員に「何が期待されているのか」について共通認識をつくる段階です。そのうえで、「フィードバック」のパートにおいてマネージャーと従業員が双方に現状の課題を提示していきます。最後の「キャリア開発」においては従業員側が主体となり、期待されているものに対して、自身の持つビジョンや達成プランを提示する、という形です。
(参照:Wantedly「アドビ株式会社」)
従業員エンゲージメントを高めるポイント
目標設定のあり方や評価制度など、従業員エンゲージメントを高める際に重要となる観点について解説します。実際に改善策を講じるにあたっては、アンケートなどの調査結果をふまえ、問題の所在を明確にしておくことが大切です。
組織と従業員の共通目標を設定
従業員エンゲージメントを高めるうえで、前提となるのは「組織と個人が目的意識を共有している」ことです。その際、重要なのは組織としての大きな目標を、個々の具体的目標に落とし込んでいくことだと考えられます。
Googleなどに採用されている目標管理システム「OKR(Objectives and Key Results)」は、こうした目的意識を共有するうえで有効に機能するでしょう。目標(O:Objective)に対し、それぞれの達成条件としての主要指標(KR:Key Result)を設定し、進捗をトラッキングするという方法ですが、鍵になるのは「OKRの階層構造」をつくることです。
「会社としてのOKR」を設定し、それに照らして「チームとしてのOKR」、さらに「個人としてのOKR」など、それぞれの段階を連動させていくことで、会社と個人の目的地を具体的に示すことができます。
仕事に対する的確な評価やフィードバック
従業員エンゲージメントの高い企業の特徴として、「そこでの仕事を通じて自己肯定感が得られる」という点が挙げられます。とりわけ「自分の仕事が適正に評価されている」という感覚は、会社への信頼を大きく左右する要素です。
評価制度を見直す際、現状の制度のどこに不満が出ているのかを見定めることが重要です。
公平性や納得感を重視するうえでは360度評価など、多面的評価制度が有効でしょう。上司だけではなく、同僚や部下からの評価も査定に取り入れることで、主観にもとづく評価の偏りを減らすことが期待できます。 実力に対する適正な評価という面では、インセンティブ制度や表彰制度などの導入を検討するのもよいでしょう。
権限委譲
従業員エンゲージメントと深い相関関係にあるのが、仕事をするうえでの「やりがい」や「成長している感覚」です。こうした感覚を得るには、与えられる権限や裁量の大きさが重要なファクターとなります。
成長意欲のある従業員には積極的に重要な役割を任せていくことで、やりがいや成長感を引き出し、組織へのエンゲージメントを高めることが期待できます。
まとめ
「従業員エンゲージメント」は仕事に対する「意欲」や「態度」など、はっきりとは認識できない部分に光を当てるための観点です。それゆえに、生産性や業績といった部分と相関性があるのかどうか把握することが難しく、組織改善において後回しにしてしまうことも多いかもしれません。
しかし、安定した経営を続けていくための土台となるのは、やはり個々の従業員が抱いているモチベーションや、会社への信頼感だと考えられます。組織を見直すにあたり、このような見えない地盤の状態を確かめることは、もっとも根本的な問題への洞察につながりうるものです。
従業員エンゲージメントをめぐる調査結果は、組織改善に向けたヒントを与えてくれます。適切な調査によって従業員の意識を知り、進むべき方向性を探っていきたいところです。