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企業にとって、人材採用時の「内定通知」は新たなメンバーを迎え入れるための重要な手続きです。通知を受ける内定者にとっては、企業が「志望する対象」から「貢献する対象」へと立場を変える通過儀礼としての意味を持つでしょう。
しかしもちろん、内定を伝えたからといって、内定者が無条件に入社してくれるわけではありません。複数の会社から内定を得ていたり、あるいは採用過程や内定期間中に会社に対するモチベーションを失ってしまったりと、辞退される可能性はつねに考えておく必要があります。
さらに、「内定を受諾された状態」であっても、入社を確実視するのは性急です。2020年に「株式会社MyRefer(マイリファー)」が行った調査においては、21年卒の大学生のうち25%が「複数の内定先に対して受諾の意思を伝えておく」ことを検討しているとの結果が示されています。コロナ禍の不安定な情勢のなか、「万が一に備えて内定を複数キープしておこう」という傾向に拍車がかかっていると見られ、企業側としては「内定受諾後の辞退」というリスクを無視しえない状況となっているといえるでしょう。
(参照:SankeiBiz(サンケイビズ)「就活生4人に1人が複数社の内定承諾希望 採用支援のマイリファー調べ」)
内定辞退を防ぐうえでも、入社後のスムーズな定着を促すうえでも、重要なのは「内定者に対するフォロー」です。内定期間中の研修や面談などさまざまな形が考えられますが、まず内定者が「自分はここで働くことになるんだ」という実感を抱く最初の契機となるのは「内定通知」でしょう。
選考結果を待つ不安のなか、最初に内定を知らせる文章は、内定者のモチベーションや会社への愛着心を大いに左右すると考えられます。「受ける側」から「貢献する側」へと転身していく第一歩を後押しするような文面により、内定者の進むべき筋道を示しておきたいところです。
この記事では、内定通知書を送る際に留意すべきポイントや、テンプレートとして使えるメールの例文を紹介したうえで、内定者に対する適切なフォローのあり方について検討していきます。
内定通知はメールのみでも大丈夫?
内定を連絡する手段としては、「内定通知書」という文書のほかメールや電話、あるいは口頭での伝達といった方法が考えられます。送受信の簡便性や、内定者に心理的なプレッシャーをかけるリスクが少ないことから、現在ではメールの利用が増えていますが、その際「内定通知メールで済ませてしまっていいのか」と不安に思う方もいるかもしれません。
法律的な観点からいえば、内定を連絡する際のフォーマットに規定はありません。「内定」が「労働契約」としての有効性を持つのは、企業側から示された採用の意向に対し、内定者が入社の意思を明示した時点です。双方の合意が認められた段階で、「始期付解約権留保付労働契約」が締結されたと見なされます。
そのため、通知そのものの形式は問題ではありません。重要なのは合意形成がなされたことを形として残しておくことですので、内定者側からの意向を確認する際に「内定受諾書」や「入社誓約書」を提出してもらう、という形が一般的かつスムーズでしょう。その際、企業側からもあらためて書面で「内定通知書」を発行しておくと、内定者側の安心感につながります。
内定者は「始期付解約権留保付労働契約」を任意に撤回できる
内定通知に対して、内定者が入社の意思を明示することによって締結される「始期付解約権留保付労働契約」は、法的にはどのような拘束力を持つのでしょう。
「始期付」は契約開始の時期について定めがあること、「解約権留保付」は契約開始前に撤回の可能性があることを表しています。すなわち、「働きはじめるまでに解除されることもありうる労働契約」というわけですが、企業側はこれを任意に撤回できるわけではありません。
雇用する側がこの契約を解除できるのは、採用過程では知りようのなかった理由があり、さらにそれが「客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるもの」である場合に限られます。そのため、内定通知メールを送る段階で、「通常の労働契約と同等の責任が生じる」という認識を持っておくことが望ましいでしょう。
一方で、この「始期付解約権留保付労働契約」は、内定者側に対する制限はほとんどありません。内定辞退の申し出が「著しく信義則上の義務に違反する態様」でなされているのでない限り、内定者は損害賠償の責任を負うことなく、任意に入社の意思を撤回することが可能です。内定通知後、入社誓約書などが提出されてからでも内定辞退は十分にありうるため、この点からも「入社までのフォロー」は不可欠といえるでしょう。
内定通知メール作成のポイント
たとえメール一本であっても、伝え方によって受け取る側の印象はさまざまに異なります。とりわけ緊張のなか開く内定通知メールは、その後まで強いインパクトを残すことが想定でき、入社に関する意思決定を左右する要因ともなりうるでしょう。
そのため内定通知メールを送る際は、必要事項を押さえつつ、内定者のモチベーションに働きかけるための工夫を行いたいところです。
内定者それぞれに合わせた内容を盛り込む
内定通知メールには採用決定の旨やその後の手続きの流れといった内容を記載することが一般的ですが、それらの事務的な記述のみでは、採用された喜びやモチベーションを感じにくいかもしれません。
内定者の意欲に訴えかけるためには、採用過程で提示されたアピールポイントや、面接時の印象など、その内定者に合わせた内容をメールに記載することが差別化につながります。個々に異なる内容を盛り込むことで、「ちゃんと自分のことを評価して採用してくれた」という信頼感が生じやすくなるでしょう。
これらのポイントについては、必ずしも長く記載する必要はありません。当事者間で共有がなされている点をしっかり押さえておけば、一文であっても内定者の心に強い印象を残せるはずです。
次に内定者が取るべき行動を示す
内定通知メールには、採用決定の旨だけではなく、次のステップについての案内を明記しておきましょう。次回の来社日程を確認したり、入社誓約書の送付について案内したりといった内容が一般的です。
基本的に内定者は、「内定通知メールにはなるべく早く返信しなくてはいけない」という意識を持っています。そのため返信すべき内容を明確にし、迷いなく行動に移れるような文面を心がけるとよいでしょう。
決定後は早めの送信がベターだが、時間帯に注意
求職者は同時進行で選考を受けていることも多いため、選考結果が決まった後はなるべく早く連絡することが望ましいです。間隔が空いてしまえばそれだけ、内定者は「その次」を考えていくことになります。
とはいえメールを送信する時間帯には注意しておきましょう。募集要項などに示してある始業・終業時刻を大幅に越えるような時間帯にメールを送信してしまうと、「長時間労働が常態化した職場」というイメージを与えてしまうこともあり、悪印象につながりかねません。
内定通知メールのテンプレート
内定連絡する際にテンプレートとして使える例文を紹介します。自社の社風や内定通知後の流れに合わせ、適宜アレンジしながらご利用ください。
例文その1・郵送書類の案内
件名:【採用試験結果通知】株式会社◇◇
●●様
先日はご多忙のなか、
弊社の採用試験にご足労いただき、誠にありがとうございました。
株式会社◇◇、人事部の○○です。
慎重に選考を進めました結果、
ぜひ●●様を弊社の社員としてお迎えしたく
採用内定を決定いたしましたので、ご報告いたします。
つきましては、
下記の書類を郵送いたしましたので、
必要事項を記入し、ご署名とご捺印のうえ、
令和×年×月×日までに同封の返信用封筒にて
ご返送くださいますようお願いいたします。
<郵送書類>
・入社誓約書 1通
・身元保証書 1通
ご不明点などがございましたら、
どうぞお気軽に人事部の○○までご連絡ください。
●●様の××な力が、我が社に新たな風を吹き込む日を
社員一同心待ちにしております。
以上、メールにて恐縮ではございますが
何卒よろしくお願いいたします。
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株式会社◇◇ 人事部
○○
住所:〒000-0000 △△県△△市△△
TEL: 000-0000-0000/FAX:000-0000-0000
E-Mail:xxxxxxx@xxxx
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例文その2・内定式の案内
件名:【採用試験結果についてのお知らせ】株式会社◇◇
●●様
お世話になっております。
株式会社◇◇、採用担当の○○です。
先日はお忙しいところ、当社の最終面接までお越しいただき
誠にありがとうございました。
選考の結果、
●●様の採用内定を決定いたしましたのでご報告いたします。
●●様の××な点について、
採用担当ともども大きな期待を寄せており、
ぜひ当社の発展にお力添えいただきたいと思っております。
つきましては、内定式を下記の日程にて開催いたします。
ぜひご出席いただきたく、ご案内申し上げます。
本メールへの返信として、ご出欠の旨をお伝えいただけますでしょうか。
〈内定式〉
【日程】令和×年×月×日(×曜日)
【場所】××××
【時間】00:00~(00:00より受付開始)
なお、入社に際しての手続きや必要書類につきましては、
追って連絡を差し上げます。
ご不明点などがございましたら、お気軽に採用担当までご連絡ください。
●●様を当社の一員としてお迎えできる日を
心よりお待ちしております。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
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株式会社◇◇
採用担当 ○○
住所:〒000-0000 △△県△△市△△
TEL: 000-0000-0000/FAX:000-0000-0000
E-Mail:xxxxxxx@xxxx
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例文その3・次回来社日の確認
件名:【採用試験結果のご報告】株式会社◇◇
●●様
お世話になっております。
株式会社◇◇、人事部の○○です。
この度は当社の採用試験にご応募いただき、
本当にありがとうございました。
社内で選考を進めた結果
●●様をぜひ新たなメンバーとして迎え入れたいという結論に至りました。
メールにて恐縮ですが、ここに●●様の採用内定を通知させていただきます。
面接の際に示していただいた、●●様の××というビジョンが
鮮明な印象として残っており、
共に働ける日を今から待ち遠しく思います。
さて、今後の流れについてですが、
入社手続きについてご案内したく、
あらためて当社までお越しいただきたいと思います。
以下の日程より、●●様のご都合のよい日をお選びいただけますでしょうか。
ご都合がつかない場合には再度スケジュールを調整させていただきますので、
お気軽にご相談ください。
1. ×月×日(×曜日)00:00~00:00
2. ×月×日(×曜日)00:00~00:00
3. ×月×日(×曜日)00:00~00:00
その他、何かわからないことなどがありましたら、
私○○までご連絡くださいますようお願いします。
それでは、また次にお会いできる日を楽しみにしています。
今後ともよろしくお願いいたします。
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株式会社◇◇ 人事部
○○
住所:〒000-0000 △△県△△市△△
TEL: 000-0000-0000/FAX:000-0000-0000
E-Mail:xxxxxxx@xxxx
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内定通知以降の内定者フォロー
内定通知メールと契約書類のやり取りの後、何のフォローもなく入社を迎えることは避けたいところです。仮に「入社に際して特別な準備は必要ない」と企業側が考えているとしても、内定者側は「うまくやっていけるのか」と不安を抱いていることが多々あります。
内定期間中に適切なフォローを行うことで、不安を軽減することはもちろん、複数の内定を得ている内定者が自社への入社を決断する際のきっかけにもなるかもしれません。新卒・中途の別や、採用した人数など、状況に合わせてフォローの方法を検討していきましょう。
内定者研修
内定者の「うまくやっていけるか」という不安に応える方法として、まずは内定期間中の研修が考えられます。はじめて就職する新卒者の場合にはとくに、「何を身につけておくべきか知りたい」という気持ちが強いでしょう。
「株式会社ラーニングエージェンシー」が2020年に行った「内定期間に感じていること」についてのアンケート調査において、内定者がもっとも不安に思っているのは「自分の能力で仕事についていけるか」という点でした。さらに、内定期間中に会社から期待するサポートについても、「社会人としての基礎」や「業界の専門知識や専門スキル」を教わる機会が欲しい、という項目が1位と2位に位置しています。
(参照: 株式会社ラーニングエージェンシー (PR TIMES)「【内定者 意識調査】令和時代の内定者1,121名の「本音」を調査 内定者が感じる不安の6割は“自分の能力”」)
このことからも、内定者の不安を解消するうえで、内定者研修の有効性は高いといえるでしょう。実際に研修を行う際には、ハードルを上げすぎず、マナーや仕事への取り組み方など基礎的な内容から進めていきたいところです。
実施方法については、オンラインでセミナーを配信し、フィードバックを送信してもらうなど、内定者に負担をかけすぎない形が望ましいと考えられます。
内定者同士の懇談会
新卒などで同時期に入社する内定者が複数名いる場合には、内定者同士の顔合わせをあらかじめ行い、連帯意識を形成する場を用意するとよいでしょう。
入社してからも、同じ目線から意見を言い合い、共に経験を重ねていく同期の存在は大きな支えとなりえます。そのため、既存社員が介入しない形での懇談会などを内定期間中に実施することで、仲間となる同期の存在を意識でき、入社に際しての精神的なハードルを下げられると考えられます。
人事担当者との面談
内定者にとって企業でもっとも身近な存在は、実際に面接などの選考過程を担当した人事担当者であることが多いです。内定者から見て「自分のことを知ったうえで選んでくれた人物」であるため、内定期間中のフォローも引き続き人事担当者が行うことで、安心感も得やすくなるでしょう。
必要に応じて個人面談を行うなど、担当者には内定者の不安や疑問を解消する相談役としての立ち回りが期待されます。企業側が内定者に何を期待しているかを伝えながら、内定者が「実際に貢献するイメージ」を形成する手助けをしていきたいところです。
中途採用者に対するフォロー
内定者が少ない中途採用の場合など、イベントや研修を一律に実施することが難しいケースでも、定期的な連絡などを通じたフォローは欠かさないようにしましょう。
連絡の際には、必ずしも明確な伝達事項が必要なわけではありません。内定者に対して不安に思うことがないかを問いかけながら、職場の近況や、内定者の入社を待ち望んでいる旨などを伝え、未知の職場に対する緊張や不安を軽減しておくとよいでしょう。
まとめ
コロナ禍のもと、就活の「売り手市場」には変化が生じていると指摘されています。企業にとっては人材を確保しやすい状況となっているようにも映りますが、市場の動向にかかわらず内定辞退のリスクは考慮しておく必要があるでしょう。
内定者のモチベーションを維持し、「自分はここで働くのだ」というイメージを固めてもらうためには、「内定者へのフォロー体制」が必須です。内定者が複数の内定先の間で迷っているケースでも、適切なフォローにより入社への見通しを具体的に持ってもらうことで、明確なアドバンテージが得られるはずです。
内定者との新たな関係をはじめるにあたり、「内定通知メール」の文面はその後の心証を少なからず左右します。それまでの採用過程をふまえた内容を盛り込みながら、内定者のモチベーションに働きかけるなど、他社との差別化を図るとよいでしょう。
新卒・中途問わず、入社まで内定者を放置してしまうことは避けたいところです。簡単なメール上のやり取りであっても不安の解消に寄与することは可能なため、内定者に寄り添い配慮する姿勢を示しながら、信頼関係を構築していきましょう。