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労務コンプライアンスとは?会社の信用を守るために知っておきたいこと

労務コンプライアンスとは?会社の信用を守るために知っておきたいこと

ミーティング

コンプライアンス(compliance)とは、「(規則や法則、要求などに対する)遵守、適合性」を表す英語です。企業におけるコンプライアンスとは、「法令・企業倫理を守ること」と言い換えられます。

その中でも労働関係法令を守り労務管理を行うことを、「労務コンプライアンス」と呼びます。労務管理は働きやすい職場環境を整えることで労働者のモチベーションを維持し、経営上の目標を達成するサポートを行うという目的があります。

企業に対する社会的な評価のまなざしが強まり、より高い透明性を求められるようになった昨今、コンプライアンスを守れていることは、もはや特別なことではありません。労務コンプライアンスを改めて意識し、労働者や求職者、また世間一般からの信用を守ることは必要不可欠です。

就業規則が労務コンプライアンスの基準

常時10人以上の従業員を雇用している企業は、「就業規則」を作成し、自社の基本的な労働条件を定める必要があります。また、就業規則を労働基準監督署に提出しなければなりません。

就業規則はどのような内容でも自由に定めて良いわけではなく、労働基準法をはじめとする労働関連法にもとづいて規則を決めることが求められます。労務管理は原則として就業規則を基準として行われるため、就業規則そのものが各種法令に反していると、自然と労務コンプライアンスも守れなくなってしまいます。

経営者が必ずしも労働関連法に精通しているとは限りません。そのため、「自社の利益のために法律に反した規則にしてしまおう」と考えたわけではなくても、コンプライアンスに反した就業規則を作成してしまう可能性があります。

そのような事態を避けるため、社会保険労務士や弁護士といった労働関連法に詳しい専門家に相談し、法律に則った就業規則を作成することが重要です。

労務コンプライアンス遵守意識を高め、リスクを未然に防ぐ

チェック

労務コンプライアンスがおざなりにされることは、企業に様々なリスクをもたらします。

長時間労働や残業代の未払い、各種ハラスメントなどが常態化し見逃され続けることが、労使間の信用関係喪失、また企業の評判低下につながることは近年になって認知されるようになってきました。

ただ単に企業の評判が落ちるだけにとどまらず、離職率が高まり業務が立ち行かなくなるリスクや、労働基準監督署の行政調査を受けて行政処分されるといったリスクも同時に高まるでしょう。

たとえ労務コンプライアンスにもとづいて定められた就業規則を定めている企業であっても、社員の労務コンプライアンス遵守意識が低ければ、実際の運用面でギャップが生まれる可能性はあります。

労務に携わる社員だけではなく、企業のトップから一般の従業員にいたるまで「規則は守るもの」という考えを浸透させ、労務コンプライアンス意識の高い組織にしていくことが必要です。

チェックリストで現場から労務コンプライアンス意識を高める

チェックリスト

一口に「労務コンプライアンス意識を高める」といっても、ただスローガンとして言い続けるだけでは社内の文化を変えることは難しいでしょう。

労務コンプライアンスに関わる要素は経営層の判断にも大きく関わる部分であるため、現場だけが意識を高めても「結局何も変わらないじゃないか」と呆れられることにもなりかねません。「労務コンプライアンスを守ることは、企業の根本的な価値観である」と代表自らが実践する姿勢を積極的に見せていくなど、上層部から労務コンプライアンスに則った経営を意識していく必要があります。

労務コンプライアンスが守れているかどうかを見直す際には、社労士や弁護士といった専門家のチェックを受けることが確実な方法です。現場レベルで確認をする方法としては、簡潔なチェックリストを用いて一定期間ごとに評価を行う方法があります。

評価項目には、次のような内容が考えられます。

項目 内容
労働条件 採用時、また労働条件変更時に条件を記載した書面を労働者に交付しているか。
(常時10人以上の従業員を雇用している場合)就業規則を作成し、労働基準監督署に提出しているか。
採用時、および定期的な健康診断を実施しているか。
一定要件に該当する労働者を雇用保険に加入させているか。
常時雇用する労働者を社会保険(厚生年金・健康保険)に加入させているか。
労働時間・有給 時間外労働・休日労働の労使協定を締結した上で、時間外労働をさせているか。
法定年次有給休暇を与えているか。
有給休暇を取得した労働者に対して、不利益な取り扱いをしていないか。
毎週最低でも1日の休日を与えているか。
賃金 都道府県によって異なる最低賃金以上の金額を支払っているか。
時間外労働・休日労働を行った労働者に、法定割増賃金(時間外:+25%以上 休日:+35%以上 月60時間を超える場合は+50%以上)を支払っているか。
22時~翌5時の間に労働(深夜労働)を行った場合、法定割増賃金(+25%以上)を支払っているか。
業務上の罰則による減給は法定の範囲(1回の罰則で平均賃金の1日分の半額まで。複数に渡っても1回の賃金支払期につき賃金の10分の1まで)で行っているか。
育児・介護など 婚姻・妊娠・出産・産前産後休暇を取得したことを理由に、不利益な取り扱いをしていないか。
労働者の請求に応じて、産前休暇を与えているか。
産後8週間が経っていない労働者を働かせていないか。※産後6週間を経過し、かつ医師が認める場合は就業させてもよい。
出産・育児・介護に関する制度利用の申し出があった場合、また制度を利用した場合に、不利益な扱いをしていないか。
高年齢者の雇用確保 定年は60歳以上か。※定年を定めている場合に限る。
65歳までの高年齢者雇用確保制度(1.定年引き上げ 2.継続雇用制度の導入 3.定年の廃止 のいずれか)が整備されているか。
解雇・雇い止め・無期転換 解雇予告をしたうえで解雇をしているか。※解雇予告は30日以上前に行う必要がある。予告をしない場合、30日分以上の平均賃金を支払う。
客観的に合理的で、社会通念上相当であると認められる解雇事由が就業規則に定められているか。
一定の条件に適う労働者の雇い止めを行う場合、最低でも契約満了日の30日以上前に予告をしているか。※一定の条件=3回以上契約を更新している。または雇用後1年以上継続勤務している。
一定の条件に適う労働者について、無期雇用契約転換の申し出に対応しているか。※一定の条件=雇用契約を5年以上更新しており、労働者から申し出があった場合。

労務コンプライアンスは企業と労働者を守る

労務コンプライアンスの内容は、主に「労働者が働きやすい環境を整えること」に重きが置かれています。そのため使用者からすると、少々不自由に感じる部分もあるかもしれません。特にこれまで慣習的に行われてきたことが、急に「コンプライアンス上不適切」と言われても、すぐに対応することが難しい可能性もあります。

とはいえ労務コンプライアンスが求めているのは、あくまで「法律に定められた最低限の条件」です。「こうでなければ仕事が回らないから」「法律に従うと経営が立ち行かないから」といった言い訳をしても、違法な行為であることに違いはありません。

違法行為を見逃したまま経営を続け、「最低限の条件すら満たせない企業」と見られることは、長い目で見れば結局自社に悪影響を及ぼします。

特に現代では、退職した労働者がSNSや転職口コミサイトなどを通じて、企業の内実を良かれ悪しかれ発信できてしまいます。悪い評判が流布されるのを防ぎ、周囲に良いイメージを持ってもらうためにも、労務コンプライアンスを遵守する文化を根付かせることが必要です。